「…そ、それで屋敷を丸ごと買い取ったって言うのか?!」
一章:小話/手袋は投げられた〜ロンドンに渡った二人〜
「そうよ、何か文句ある?」
…遠坂の話によると、初めは家賃の安い寮も良いと思い下見に行ったのだけど、そこで一人の女子生徒と取っ組みあいの大立ち回りを演じてしまい、追い出されたのだという。
なんとも…遠坂らしいといえば遠坂らしいけど…というか、相手も相手だ。
遠坂と立ち回りを演じるなんて、俺からしてみると信じられない。
「なるほど、その首に巻いてある包帯はそういうことか…」
遠坂の首元には痛々しく包帯が巻かれていた。
…しかし、遠坂に手傷まで負わせるとしたら、相手も相当な化け物…
「衛宮君?…何か失礼な事を考えていないかしら?」
「い、いえ!何も!!」
遠坂は朝のこともあってかなり機嫌が悪い。
…これは触らぬ神に祟りなしだな。
「…ったく、それにしても思い出しただけでも腹が立つわ!あの時代錯誤の縦巻きロール!!」
…どうやら俺たちの前途には色んな問題がありそうだ…
「…で、結局その後、イリヤの独断ででっかいお屋敷を一つ買ったと」
「大きいって言っても、わたしの城に比べれば大したことはないけどね」
…それは、イリヤの感覚が俺たちとかなりずれてるからじゃあ…
「…でも、姉さんが大暴れしている時、イリヤさんはどちらにいられたんですか?」
…それもそうだ。
イリヤが一緒にいてくれれば、揉め事もここまで大きくはならなかった筈だ。
すると、イリヤは顔を綻ばせニコニコ笑い始めた。
…遠坂とは違って、とても楽しかったことでも思い出すように。
「ん〜、実はね、友達と遊んでいたの」
「友達?向こうに知り合いでもいたのか?」
「ううん、その子とは向こうに行って初めて逢ったの。…初めて逢って、お話しして、一緒にロンドンの街を見て回っていたの」
「へ〜、すごいな、もう友達を作るなんて」
…歯をギシギシいわせながら悔しがる遠坂と、ニコニコ笑いながら話をするイリヤ。
その二人のまったく違う表情が、これからロンドンで俺たちを待ち受ける様々な出来事を予見しているものだと、この時の俺は考えてもいなかった…
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